『働く親のためのサバイバルガイド 子育ても仕事も大切にしたい人の人生戦略書』著者 岸畑聖月さんインタビュー 後編

初著書である『働く親のためのサバイバルガイド 子育ても仕事も大切にしたい人の人生戦略書』(文響社)を上梓した岸畑聖月さん。本書は、発売前のプレスリリース段階からSNS上で反響を呼び、予約段階でAmazonランキングカテゴリ1位を記録、そして発売1ヶ月を待たず重版も決まるなど話題となっています。

著者の岸畑さんは、現役の助産師として出産の現場に立ち会いながら、病院の外でも助産師としての知見を活かした会社を経営する異色の経歴の持ち主。なぜ岸畑さんが「はた親」(=働きながら子育てに向き合う全ての人)に向けた本を書くことになったのか?

インタビュー後編では、活動の原点である思春期の闘病の経験と、こだわりを込めた本づくりの裏側を伺いました。

初著書である『働く親のためのサバイバルガイド 子育ても仕事も大切にしたい人の人生戦略書』(文響社)を上梓した岸畑聖月さん。本書は、発売前のプレスリリース段階からSNS上で反響を呼び、予約段階でAmazonランキングカテゴリ1位を記録、そして発売1ヶ月を待たず重版も決まるなど話題となっています。

著者の岸畑さんは、現役の助産師として出産の現場に立ち会いながら、病院の外でも助産師としての知見を活かした会社を経営する異色の経歴の持ち主。なぜ岸畑さんが「はた親」(=働きながら子育てに向き合う全ての人)に向けた本を書くことになったのか?

インタビュー後編では、活動の原点である思春期の闘病の経験と、こだわりを込めた本づくりの裏側を伺いました。

働く親のためのサバイバルガイド

働く親のためのサバイバルガイド

1958円(税込)

妊娠出産できないと告げられた14歳。命を産めないのなら、支える側になりたい

経営者でもあり、助産師でもあり、そして複数のライフワークを通じて「命」にまつわる課題解決に取り組んでいる岸畑さんですが、そもそも岸畑さんが現在の活動に至るまでには、どのようなご経験があったのでしょうか。

一番さかのぼると、中学2年生のときの闘病経験が大きなきっかけになっています。婦人科系の病気で、将来「妊娠・出産することが難しい」と医師から宣告されました。そのときに、「自分が命を産めないのなら、命を支える側の人間になりたい」と思ったことが大きかったです。命にまつわる社会課題への意識や、死生観みたいなものも、そのときに形成されていったと思っています。

もうひとつには、その闘病の直後に、自宅の近くでネグレクト(育児放棄)の現場に遭遇したという出来事があります。そのときに、「当たり前に起こっている」と14歳の私が思っていたさまざまなこと……妊娠や、出産や、子育てや、仕事。一つひとつが、必ずしも喜ばしかったり、うまくいったりするのではなく、挫折したり、苦しんだりする人がいるということを知りました。

命を産み出す支援もそうですけど、産み出した後の人生にも、支援する専門家が必要で、フォローしていくことが重要だなと思ったんです。せっかく産まれた命も、輝けるはずなのに、色々な荒波に巻き込まれてしまって、自己実現できなくなる親も……それが「もったいないな」と思っています。

 14歳での闘病のご経験というのは、もう少し深くお伺いすると、当時の岸畑さんにとってはどのような出来事だったのでしょうか。

幼少期は、小学校・中学校も閉校になるような、香川県の田舎町で育ちました。とても狭いコミュニティだからこそ、地域のみんなに愛されながら、野原をかけ巡りながら育ったタイプです。ただ、田舎なので、教育環境が良かったとか、例えば塾だとか、そういったものは全然なかったので、「知識」というものに飢えていましたね。自分でお金を払って通信教育とかを申し込んでいました。

そんな幼少期ですが、「制服がかわいいから」という理由で(笑)、地元から離れた、受験が必要な中学校に入学することになりました。知に飢えていたので、自ら学んで勉強もそれなりにできて、わりと「有能感」を持っていた中学生だったと思います。そんな中学2年生のある日、突然お腹が痛くなって、救急車で運ばれたんです。
何があったかというと、生まれ持っての子宮の病気が見つかり、お腹が痛くなって……結果、手術が必要になりました。

それまでは、成績も良くて、友人や彼氏もいたりして、充実した日々を送る「有能感」を持っていた岸畑聖月にとっては、なんというか……その闘病の経験というのは、大きな出来事でした。今でも一番覚えているのですが、手術が終わって目が覚めたときに、お父さんが「ちゃんと産んであげられなくてごめんね」みたいなことを話していました。そのときに、第一感情としては、「親に心配かけたくない」というような感情が湧いてきたんですけど、そこから「自分のこの体験って、どうすれば何かの役に立つ?」 ということに意識がシフトしていきました。

それは多分、親が抱えている「申し訳なさ」みたいなものを打ち消してもらうための手段だったんだと思いますが、「これからどうしたらいいんだろう」みたいなことを、入院中に考えていました。

そのときの主治医の産婦人科の先生がすごく格好よくて、「この経験を機に、医者になろう」と思ったんです。でも退院して、その矢先に、近所でネグレクトを目の当たりにして……そういうことが立て続けに起こったことで、「死生観」とか「社会課題」とか「孤立した子育て」とか「母性とはなんだろう」とか、そういった問いみたいなものが頭の中に、わーっと浮かんできて、それをずっと考えている中学生でした。

せっかく産まれた命を、なぜもっとサポートできないのか?

ネグレクトを発見したとき、どのような状況だったのか教えていただけますか。

自宅の近くで、赤ちゃんの鳴き声がして……様子を見に行ったら親が不在という状況でした。周囲の大人は「どうしてこんなことを…」という感じで批判的でしたが、当時の私は、「私自身は妊娠出産ができないけど、そのお母さんは、命を産み出している。尊いことをしているのに、どうして誰もサポートしてあげないんだろう?」と考えていました。ネグレクト自体よりも、それに対する周囲の大人の反応が衝撃的でした。

それまでは、「女性は出産すれば母親になれる」と思っていたけど、「出産してもその後にこんなに苦しむ人がいる」と知った。当時は、産婦人科医になろうという気持ちだったのですが、その出来事を経て、より長く出産や育児に関わることができる、助産師という職業を考えました。

詳しくお聞かせいただき、ありがとうございます。力強い活動の背景に、どのような原動力があるのだろうとずっと気になっていたのですが、その一端をお伺いできた気がします。

でも、「パワー」みたいなものって、みなさん、それぞれ持っていらっしゃると思うんです。うちの場合は、親がそのパワーを抑制しなかったことにすごく感謝しています。本当に、否定的な言葉をまったく浴びせられずに育ったんです。だから、そのエネルギーをまっすぐ出せるだけの話だと思います。でも、みなさん、根本には結構熱いもの持っていらっしゃるなって、お話する中で感じています。だからこそ、その自己実現の支援をできたら嬉しく思います。

執筆前のインタビューで分かった、「はた親」の価値観のリアル

その思いが、今の「はた親支援」につながっているわけですね。ここからは、少し本づくりについても深掘りさせてください。制作過程では、執筆に入る前に、現役の「はた親」のみなさんへのインタビューもしていただきましたね。改めて、リアルタイムで両立をしている方の声を聞いて、どう感じられましたか。

 普段の「はた親」の方との会話は、「悩みごとがある前提」のコミュニケーションが多かったのですが、今回の「はた親」のインタビューは、どちらかというと、困りごとを聞くだけではなく、「どう乗り越えているか」の知見を聞くという要素も大きかったので、私自身「ああ、そうやって乗り越えていらっしゃるんだ」「この知見は読者のみなさんに届けたいなぁ」と感じることも多くて、新しい「生きた学び」がすごく多かったです!

この10年で、女性活躍推進法もできて、両立する人が増えた中で、脈々と「サバイブする知恵」が実は生まれていっている。それがみんなの集合知になれば、もっと多くの人が救われる。そのことを改めて実感できて、そんな知恵を収集して本の中に入れていきたいな、と思いました。

その中でも、特に印象に残っているお話はありましたか?

例えば、育児家事分担の話でいうと、私たちは普段、「分担してお互い両立していきましょう」という話をすることも多いんですけど、インタビューの中では「家事・育児は100%自分がやるんです」という方もいらっしゃいました。「その分、旅行とかバッグとか、年に何回か旦那さんからプレゼントしてもらって、それでご機嫌を保っている」という話をされた方もいました。変に分担するのではなくて、「全部自分の責任」と割り切り、その対価をきちんとパートナーからもらうことで乗り越えやすくなった、と。

また、元々はきっちり片付けないと気が済まない性格なのに、あるとき「部屋を綺麗にするのを諦めた」という方もいました。その「諦め」をどう選択していったのかという実体験も、すごく勉強になりましたね。その切り替えがうまくできずに苦しむ方は、相談者さんの中にも多いんです。その方は、「冷静に考えたら無理」と気づいた瞬間があって、「機嫌が悪くなるくらいなら、もう私はやらない」って決めて、部屋もぐちゃぐちゃでOK、ご飯も手作りしなくてOK、みたいな。

「自分に対するOK」を与えたタイミングを教えてもらったときに、「自分の中で無理だと客観的に認識したときが、その人にとっての重要な転換期になったんだな」と、とても勉強になりました。

家事・育児は夫婦で分担して50%ずつにするのがいいのかな、というイメージを抱きがちなのですが、リアルなみなさんの声を聞いたら、「別に50%じゃなくていい」「平等にしようと思うと疲れる」などの声がありましたよね。

「全部旦那さんがやっています」という人もいましたよね! 家庭運営の仕方の正解は1つではなく、お二人が納得した選択肢こそが、正解なんです。インタビューを行って得た気づきが、本の冒頭にもある「ファミリー・ライフ・ロールモデル」という考え方にもつながりましたね。

多様な子育て家庭がある中で、誰一人取り残したくなかった

そのこととも関係しますが、執筆の上で大切にしていたのは、できる限り、バラエティ豊かな「はた親」という存在の中から特定の誰かを排除しない、ということです。例えば、読者の中には、シングルで子育てをされている方もいれば、特別養子縁組で子育てを選択されている方もいるはずです。また、この本は男女両方に向けて書いたものなので、無意識に「女性のために書いてしまっている言葉」や「男性が排除される言い回し」になってないか、には本当に気をつけました。さまざまな自分の中にあるアンコンシャス・バイアス(無意識にある偏見)に留意しながら、最後までチェックを重ねました。

でも、それでも排除しきれないバイアスも、おそらくあります。「おわりに」にも書いたんですけど、途中で流産してしまうとか、子どもが病気になってしまうとか……全ての状況を拾うことができずに申し訳ないな、という気持ちはずっとありました。

「誰も排除したくない」ということは、本当に繰り返しおっしゃっていましたね。

普段から色んな「はた親」の方とやりとりしているということもあって、「今あの人を取り残した記載になっているな……」と顔が浮かぶんです。読者のみなさんも、ぜひ気づくことがあれば教えていただきたい、勉強したいなと思います。

他にもこだわりを込めた部分があれば、教えていただけますか?

誌面のデザインもやっぱり、すごくこだわりましたね。読者のみなさんはただでさえ忙しいわけで、難しい話をいかに読みやすく、そして楽しく伝えるか、といったところは、イラストをはじめ、言葉でのメタファー(比喩表現)を入れることで工夫していました。

あとは、伝える順番もすごくこだわりました。初期の原稿では冒頭にあったメッセージを、結果として最終章に置いたり、忙しくても困ったところをぱっと拾えるように、年齢別の構成やインデックスを取り入れたりと、機能性にこだわりぬきましたね。

個人として、読者に寄り添う思いを込めた「ペンギン」の言葉

「はた親」の一人としては、テーマごとに出てくる「ペンギン」のコメントが、ひとつひとつ、すごく心に刺さりました。このペンギンの言葉を入れるアイデアは、最初からあったのでしょうか?

たしか冒頭の方、第1章を書いていたときに、「小難しいなぁ」と思ったんですよ。しっくりこなくて、試しにナビゲーター役として設定されていたペンギンの言葉を挟んでみたんです。そうしたら、なんかこう、「回収される感じ」があって、他の位置にも書き足した記憶があります。そこから、一定のカテゴリーごとで登場するようになりましたね。ペンギンのセリフは書くのが楽しかったです(笑)。難しい話のときは、ちょっとゆるめてくれる。逆に柔らかい話のときは引き締めてくれるみたいな感じで。

そうだったんですね。やはり「わかりやすく伝えたい」という思いが、ペンギンには込められていたのでしょうか。

うーん……いや、それよりも、自分らしさを入れたかったのかもしれないですね。今回は自伝本でも何でもなくて、ノウハウ本なので、そこに私の「知識」は入っていても、「アイデンティティ」はそんなに入ってない感じがあって……自分が伝えたいニュアンスと、そこにある現実の情報が、ちょっと不一致を起こしている感じがありました。でも、それを本文に盛り込むとまどろっこしくなったりとか、とても長くなってしまったりもして……初期の原稿には読みづらい感じもあったかと思うのですが、端的に情報を整理していって、ペンギンで情緒感というか、自分らしさをプラスする手法を偶然ひらめいてから、より筆が乗るようなりました(笑)。

そうだったんですね……!そんな思いで工夫をされていたとは……。読みながら何度もペンギンの言葉に救われました。

それはよかったです!(笑)

これからは、「はた親」がスタンダードの働き方へ

最後に、今回の本をはじめ、これからの活動を通じて岸畑さんが変えていきたいことや、実現したい未来像などはありますか?

「はた親」がもっと市民権を得てくれたら嬉しいなと思います。私の実感では、まだ「はた親」のみなさんはどちらかというとマイノリティのように職場では接されていたり、振る舞っていたりするのかな、という印象があります。でも実態は、「はた親」は年々増えてきているし、結構もう、マジョリティです。「実態と印象」に、まだギャップがあると思うんです。この本を通して「はた親」の存在が社会のスタンダードになって、働く方の普通のロールモデルになってくれたら良いなと思います。というか、そう社会に認識してほしいなと思っています。

たとえばうちの職場だと、子育てをしていないスタッフは、むしろ「今私は(業務上)ゲタを履いている」あるいは「ボーナスタイム」と捉えている人もいます。スタッフたちそれぞれが自分の状況をポジティブに捉え、今が「普通」じゃなくて、「ボーナスタイムだ」という認識をしているからこそ、「今頑張る」「今はサポート側に回る」という意識で日々、“共同”ということに向き合ってくれています。本書でも扱った、共同調整ですね。

時に育児や介護、自分の病気などさまざまなのですが、大きなライフイベントが起きた際には、その役割がスムーズに切り替えられる。「はた親がスタンダード」という認識だと、他のトラブルがあったとしても、結構カバーできるんです。それが正しいとは限らないですが、うちの職場ではそういった文化がすでに根付き始めています。

ありがとうございました。岸畑さんの幼少期のご経験を踏まえて本書を読むと、より一層、ペンギンが近くで寄り添ってくれているような気持ちになります。本書が読者のみなさんにとって、両立の荒波を自分らしく乗り越えていく一助となるよう、改めて祈るばかりです。

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