
初著書である『働く親のためのサバイバルガイド 子育ても仕事も大切にしたい人の人生戦略書』(文響社)を上梓した岸畑聖月さん。本書は、発売前のプレスリリース段階からSNS上で反響を呼び、予約段階でAmazonランキングカテゴリ1位を記録、そして発売1ヶ月を待たず重版も決まるなど話題となっています。
著者の岸畑さんは、現役の助産師として出産の現場に立ち会いながら、病院の外でも助産師としての知見を活かした会社を経営する異色の経歴の持ち主。なぜ岸畑さんが「はた親」(=働きながら子育てに向き合う全ての人)に向けた本を書くことになったのか?
インタビュー前編では、「はた親」の両立支援に込める思いと、支援の現場で直面した、「はた親」が抱える難しさについて伺いました。
初著書である『働く親のためのサバイバルガイド 子育ても仕事も大切にしたい人の人生戦略書』(文響社)を上梓した岸畑聖月さん。本書は、発売前のプレスリリース段階からSNS上で反響を呼び、予約段階でAmazonランキングカテゴリ1位を記録、そして発売1ヶ月を待たず重版も決まるなど話題となっています。
著者の岸畑さんは、現役の助産師として出産の現場に立ち会いながら、病院の外でも助産師としての知見を活かした会社を経営する異色の経歴の持ち主。なぜ岸畑さんが「はた親」(=働きながら子育てに向き合う全ての人)に向けた本を書くことになったのか?
インタビュー前編では、「はた親」の両立支援に込める思いと、支援の現場で直面した、「はた親」が抱える難しさについて伺いました。

働く親のためのサバイバルガイド
1958円(税込)
ありがとうございます!
大きな枠組みで言うと、1つ目は、大阪で年間分娩件数が2500件ほどある千船病院で、臨床の助産師(病棟で働く助産師)として従事しています。2つ目は、株式会社With Midwifeという会社の経営。3つ目は、公益財団法人大阪産業局というところで、女性起業家の方々の支援をしています。他にもライフワークとして、大阪府泉佐野市が行っている「赤ちゃんポスト」の取り組みや、内密出産の仕組みづくり・調査研究などにも、第一線で携わらせていただいております。

そうですね。多岐に渡っているように見えるのですが、自分の中では1本の軸があって、「人の人生に触れる仕事」に携わりたいと思っているんです。根本には、出産だけでなく、ひとりひとりの人生の大切なタイミングでその人に寄り添うための専門性を手に入れたいという思いがあります。「助産師が何かする」というよりは、「人の人生に触れる」ために、経営者も助産師もしている、というイメージです。
私が経営する株式会社With Midwifeでは、「THE CARE」というサービスを行っています。これは簡単に言うと、法人向けの従業員支援サービスになっていて、働きながら子育てをされる方の両立支援や、健康・キャリアづくりの支援を行っています。
例えば、「妊娠した」という方がいらっしゃれば産育休のプランを一緒に考えたり、「思春期の子どもとの関係に悩んでいる」という方がいれば、専門的な立場から、ともに関わり方を考えたりしています。それ以外にも、最近は「Jicca Nakano」という産後ケア施設の立ち上げ・運営や、医療専門職の方のキャリアアップの支援、性教育のためのボードゲーム開発など、助産師としての知見を生かして、命にまつわる社会課題を解決するためのありとあらゆる事業を展開しています。
「自己実現を支援したい」という思いが、自分の中のテーマとしてあります。与えられた命を使いながら、「自分のやりたいことをやれる」。すごく壮大なんですけど、そこにコミットしたい、という思いが強くあるんです。
「働く」ということに対してのイメージや価値観は、本当に人それぞれだと思うのですが、本書でもお伝えしたように、社会で男女雇用機会均等法など様々な法整備がされてきたように、働くということは、ひとつの権利であり、自己実現であると考えています。「本来であれば、自分の好きなことや、社会に対して提供できる価値を仕事にし、その対価を得る、という働き方ができるのに、ライフイベントや病気で諦めなくてはならない」ということはすごく残念なことだと思っています。やはり一番、そこを支援したいという思いが強くあります。

そうですね。実際、27歳で起業したときの私は、助産師の知識を持って企業という現場に行けば、ライフイベントを支援することで働く人の課題が解決できるのではないかと思っていました。でも、実際現場に立ってみると、「医療知識だけじゃダメだ」ということに早い段階で気づきました。医療の専門家として、最初は各企業の人事・労務の担当者と協働してお一人の方をサポートしていたのですが、やはりプライバシー保護など連携の難しさはありましたし、私たち自身が人事・労務の知識を身につけて解像度を上げたほうが、継続的により良いサポートができると分かったんです。
そこから、3年ほどかけて人事・労務やキャリア支援の知識を系統立てて学ぶ講座を作成し、全員で学びました。企業内の人事制度にはどういった評価の仕組みがあるのか、国にはどのような労務の制度があるのかはもちろん、業種ごとの働き方の違いや、福利厚生の種類など。あとは、もちろんコミュニケーションスキルも大切なので、コーチングやコンサルタントの資格をとっている人もいます。
専門家にも入ってもらって、助産師向けのカリキュラムを作り、ウェルネスコーディネーター(各企業で支援を行うスペシャリスト)の育成もしています。
全然違いました。例えば、一般的な病棟で働いている助産師の目線では「最近、育休は全員取得できるようになったらしい」くらいの解像度だと思うんです。妊婦さんと退院した後の計画について話すとき、「旦那さんは育休を取りますか」と、よく聞くんですよね。「取ります」「うんうん、良かった」で終わっちゃうんですけど、しっかりした知識を持っていると、もう一歩踏み込んだ相談に乗ることができます。「旦那さんって、どういう形態のお仕事をしているんですか」「繁忙期っていつですか」「分割取得だと、この時期とか取れそうですか」みたいな、具体的な提案までしていけるようになりました。働き方とか、業種における違いとか、解像度の高いところまで踏み込めるようになりましたね。また、育休中や復職後も継続して、健康や子育て、仕事との両立の相談に乗ることができるのも大きいです。
そうなってくれたらいいなと思っています。本の中でも、「フルタイム勤務」や「時短勤務」などのメリット・デメリットをまとめましたが、やはり人事・労務の知識を持っておくことで、「時短にします」と相談者さんがおっしゃったときに、その方にとってどんなメリット・デメリットがあるのか、育児を支援していくために、その支援制度の使い方は最適なのか、理解して伴走できるようになりました。

そうですね。ライフイベントというのは、仕事と同じぐらい、人生の中の大きな比重を占めると思うのですが、仕事はある程度系統立てて学べるハウツーのようなものがあるとして、ライフイベントって本当に手探りですよね。
だから、それぞれが行き当たりばったりになってしまいがちで、「正しい情報を持っていない」「自分の状況では、どうその情報を活かせばいいかわからない」みたいな場面を、間近でよく見てきました。そしてそれを、各人が個人の努力で乗り越えていく姿を目の当たりにしていたので、ライフイベントに関する情報がもっと、仕事と同じぐらいのレベル感でみんなの集合知になったらいいな、と常々思っていました。
結構多いです。この前も、4月から復職される方からのご相談を受けました。その方は元々仕事がお好きな方で、海外出張も多い……というバックグラウンドをお持ちだったのですが、ベビーシッターなどの支援サービスは知っているものの、使ったことがなかったんです。情報としては知っているけど、現実味を帯びた選択になっていなかった。使い方のイメージになんとなく抵抗感を持っていたり、コストがかさむイメージを持っていたり、などが理由です。
でも実際に、ベビーシッターというサービスがどういうタイミングで使えるか詳しくお話ししたり、復職先の人事の方に確認し、内閣府のベビーシッターチケットを使えるように整えていただいたりすると、「活用しながらやっていきたいです」ということになりました。
選択肢を知っていても、使えるまでの選択肢になっていないという方も結構いらっしゃるんです。でも実際には、コストの抑え方や、柔軟な活用方法もあるので、それをお伝えすると喜んでくださって、その方の自己実現に繋がっているな、と感じることはあります。
そうですね。病児保育とかもそうですよね。
「はた親」のみなさんはすでにフル回転の方が多いので、まずはねぎらいの言葉をお伝えするのですが、それに関することで、「支援を受ける心の準備」が必要になる方もいます。
私たちが支援を届けようとしても、八方塞がりで、支援の手を入れる余白すらない、みたいな状況の方です。そういう方に支援を届けるには、やはりちょっと時間も必要になります。
支援を受ける心の準備というのは、言うのは簡単ですが、結構難しいものだと感じています。すでにパンパンな生活の上に「支援」という新たな選択肢を入れるのは、実は心的ハードルが高いものを受け入れる過程でもあります。とはいえ、パンパンな状況をそのままにするわけにもいかない。まずは、その方の感じている負担感や不安、不満を一度吐き出していただき、私たちがすべて受け止めることで、信頼関係を築くことが第一歩になります。

専門的な視点から見ていると、みなさん日々大変な思いをされているからこそ、「自分が置かれている状況をまずは理解してほしい」という思いがあるように思います。「今これほどしんどい状況なんです」ということを理解してほしいときに、「それってこう変えれば少しラクになるかもしれませんよ」という助言をされても、「自分の負担はそんなに簡単なものじゃない」という思いが強くなってしまう。支援の手を、拒絶してしまうんです。
だからまずは、支援の選択肢を出す前に、その人の理解者として、私たちがその人の輪の中に入っていきたいと思っています。関係が築けると、その人の心に少しだけ余白が出てきて、支援も受け入れてもらいやすくなるんです。
その人その人のライフスタイルは「簡単に変えられるものではない」ということは理解しているつもりです。だからこそ、この本の中でも、まずは今のみなさんに対するリスペクトを一番に伝えたうえで、提案をしていきたいと考えていました。
やはり、「子どもの命を守る」ことももちろんですが、「仕事」にも責任が伴いますよね。責任感を強く持って自分の力で頑張ることは、本当に素晴らしいことなのですが、自分自身にご褒美をあげられていない方については、「自分は誰かに相談したり、SOSを出したりすることが苦手かも」と認識することが、支援を受ける心の準備の始まりだと考えています。
子どもの頃って、支援を受けるのが当たり前ですよね。ご飯を食べさせてもらうのとか、意思がある前から、支援を受けている状況だと思うんです。大人になるということは、他者からの支援を排除して、自立すること、それが「正義」だと思う人も多くいます。
でも、そこから「子育て」という段階になったら、ライフステージが変わります。環境が変わるので、もう一度支援を受ける側に戻るということを、まずは認識することが大事だと思っています。本当の自立とは、依存先を増やすこととも言われますよね。私も「出産した瞬間から、お二人とも支援を受ける側ですよ」といつもお伝えしているのですが、その切り替えがあまり上手にできず、(他人に頼らない)自立が正しいという思いのまま、子育てもその「自立」の箱の中に入れてしまう方が多いんです。だからこそ、受援力がすごく、難しいけど大事だなと、常々思います。

制作過程では、どちらかというと、「集合知」を作ることが今困っている人のサポートになると思っていました。だから困っている方々の顔を思い浮かべて制作をしてきましたが、作り終えてみると、これは「早く知っていただくに越したことはないな」とも思いました。さっきお話ししたように、いっぱいいっぱいになってしまうと、情報の処理がしきれません。だから、そうなる前の、妊娠を考えている方とか、妊娠中の方に読んでいただけると、たぶん一番効果が高いし、受け入れていただきやすいと思います。
また、意外な反響だったのが、経営者や子育て層の上司の方、支援機関の方からの声です。「今、当事者から話を聞いたり想像したりして子育て世代の支援をしているけど、現場で何が起こっているのか、これで解像度が高まりそう」という感想を複数いただきました。具体的な両立の状況を理解しながら、そのための支援策も同時に上司や経営者が吸収して、今後マネジメントに活かせるようにしたい、といった趣旨のことを言ってくださっています。
そうですね。あとは、カウンセリングやその他の支援機関に自分から「申し込む」というワンアクションがなかなか取れない当事者の方もいると思うので、それよりもう少しカジュアルな手段として手に取ってもらえたらいいなと思います。誰かに頼るのは、「人」が介在するとハードルが上がってしまうと思うので、「はた親」の方への支援を、本を通じて伝えられたら嬉しいです。


働く親のためのサバイバルガイド
1958円(税込)